rod we loved

僕は釣りが大好きだった
小学校のころは、家の船がある冨具岬港に毎日行っていた

狙う魚はどれも小物、しかも下手
でも、海で遊ぶ事が好きだったから、一匹も釣れなくてもそれは楽しいものだった

釣りが好きになったきっかけは、親父の釣り竿だった
親父が幼少のころに使ってた、短い、剥げかけの青い竿をもらったのだ
僕はこの親父の物を譲り受けた喜びの勢いで、釣りが好きになったのだと思う

青い竿は、とてもへそ曲がりだった
僕が持つと釣れないのに、親父が触ると、魔法のように魚が釣れる
時には小物しか居ないはずの港で、大きな石鯛をつりあげた
「ほれ、かしてみい、こうやるんだ」
一瞬の出来事で、僕ならず周りの釣りキチも白目をむいた

なんとかして自分の物にしようとしたが、それは突然の別れであっけなく幕を閉じた
僕の垂らしてた糸を、船が引っ掛けてしまったのだ
力なく海に引きずられていく青い竿は、いつしか緑色の野間の海に吸い込まれてしまった

唯一の宝を奪った憎さで、その日から僕は釣りが嫌いになった
あれから何年と、僕は親父の物を譲り受けてもらっていない
同じ少年時代を過ごした青い竿に、僕らは余程未練があるようだ


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