run into the dark

「人が狂い始めるのは三月」
って陽水が歌っていたことを、僕は覚えていた

春の雨や、桜の散る姿はなんとなくさびしい気持ちにさせる力があることを知っていた
だけど、歌の科白だと、いつものように思っていた

僕は春の雨の夜、バイクを走らせた
携帯の向こうから聞こえるさみしいの声は、僕を駆り立たせるものがあった

知らないうちに、自分でも信じられないスピードを操っていた
何台も車追い抜いた、何度もカーブでこけそうになった
山間の道、何度も走った道、だけどその日はやけに長く感じた

電話じゃ気持ちの1割も届かないこと、みんなは知っているのだろうか
僕はもちろん知らなかった
だから走ってみてようやく分かった
たどり着いた先、そこにはその答えがあった

心が狂うことは、淋しさの果てのことなのかもしれない
親を亡くした子達は一生懸命その狂いを押さえ込んでいる、だから強く見える
ただそれは春という季節が来るたび、桜の散る姿を見るたび大きくなってしまう

僕はその日、淋しさの本質が見えたような気がした
大学時代のある春の出来事だった

季節の巡りはこれからも僕にこれを思い出させるかもしれない
春は僕にとってあまりいい友達ではないようだ


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