toilet

祖母の家のは汲み取り式だ
おまけに、よその家と紙が違う
長方形の「薔薇」とかいうやつだ
婆さんのセンスが光る、イイ

小さいときは、それはもう怖かった
何度か下界に足をすくわれたし、大事なマンガも落っことした
あんまりいろんなもんを落っことすもんで、ある日母がいいものをくれた
「交通の教則」
母にとって交通の教則はトイレの読み物程度だったようだ

それは素晴らしいアイテムだった
特に巻末の標識には心奪われた
「合流注意」「滑りやすい」「安全地帯」
言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい感動だった

それ以来、「トイレ」と「交通の教則」はいっしょくただった
交通の教則を読みにトイレにふんばりに行った
あまりに熱心なもんで、下界に落ちたかと何度も祖母を心配させた

やがて自分も、自分の「交通の教則」手に入れた
でも、感動は、ない
大事にしていたはずの感動は、やる気のない教官たちに奪われていたからだ


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